いっとき避難場所

人間万事塞翁が馬

音、転移

ここんとこふっと思い出す。

 

前の病院に二回目に通院した時に

心理士のカウンセリングが終わって、診察室で医者と話したのだが、

その時に、入室して席に着いた途端、先生が、

"あの音は何でしょう?"

という。わたしにはなにも聞こえないから、

"聞こえないんですけど"

"静かにしてみると聞こえる"

というから、黙って耳をすますと、確かにどこかから低くて重い、規則的な金属音のようなものが聞こえてきた。

すごくくぐもっていて小さい音なので、よく耳をすまさないと聞こえないのだ。

"あの音は何でしょう?"

わたしはしばらく耳をすませていたけれど、その音が一体何の音なのかわからない。

"花火?…いや、こんな季節にありえないか。工事でしょうか?"

"わからない"

…なおも沈黙は続く。

沈黙に耐えかねて

"ここはビルの最上階ですか"

"そう"

"誰かが配管を叩いてたり、工事でもしてるんじゃないでしょうか"

 

なおも沈黙は続く

 

しばらくして、まあいいでしょう、ということになって、診察が終わった

なにを話したかよく覚えていないけど

一生懸命耳をすませていたせいか、ものすごく頭がぼうっとしていた。

 

気のせいか、異常に距離が近づいた気がして、

精神科の先生はこうやって患者との心的な距離を近づけるのかしら、と思ったんだけど、

それから、転移が一気に苦しくなった

 

たぶんあの時点でわたしはアウトだったんだな。

意識が海の向こうに吸い込まれていくような気がしていた。

 

なんだけど

現実なんてものは所詮

その程度で崩壊してしまうものなのだと思えば

 わざわざ右往左往してジタバタしなければ良かった。それだけのことなのだと思う。